健康コラム
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暮らしとからだ 眠る麻酔
麻酔科 橋本光三
皆さんは「眠っている間に手術が終わったら良いなあ」と思いますよね。私が全身麻酔の説明をさせていただく時には「今日は眠る麻酔ですよ」と言うことがあります。果たして、全身麻酔は「睡眠」と同じなのでしょうか?
まず睡眠は、ホルモンの分泌や体温と同じように約24時間で繰り返される生理的な仕組みの一つです。入眠すると、ノンレム睡眠のN1からN2、N3へと深い眠りが続き、徐々に浅い眠りのレム睡眠に移行して、90分程度のこのサイクルを朝までに4、5回繰り返します。朝が近づくにつれ、レム睡眠の長さが長くなっていきます。脳波は覚醒している時のように活動的なのに、体は抑制されていて動かない状態がレム睡眠です。空を飛ぶなどの奇妙な夢や喜怒哀楽の感情を伴った夢はレム睡眠で見られることが多いそうです。この2種類の睡眠はそれぞれが特徴的で、どちらも体の休息や脳内の老廃物の排出、記憶の整理などにたいへん重要な働きをしています。
次に全身麻酔の眠りですが、吸入麻酔薬や静脈麻酔薬などの全身麻酔薬によって作り出されます。チョコレートやサプリで知られるGABAA受容体に作用して、脳内の神経活動を低下させることで意識消失をもたらすことが知られています。麻酔の時にも、ノンレム睡眠で見られるような周波数の遅い脳波が認められますが、睡眠と麻酔は明らかに異なるものです。麻酔中は急に目覚めることもなく、痛みを感じることもありません。薬の投与が調節されて、作用が弱くなると覚醒してきます。また、睡眠では呼吸や血圧は基本的に安定していますが、麻酔では薬の影響で呼吸や循環が変化する、あるいは変化させることが必要になることがありますから、麻酔科医がモニターでしっかり管理しています。
睡眠と麻酔は似て非なるものですが、手術が終わって「もう終わったの、眠っていました」と、目を覚ましてくれる方もいるのですから、やはり「眠る麻酔」で良いのかなと思います。
