健康コラム

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高齢者の貧血(後編)

汐田総合病院 総合診療科 田近賢二医師

 

貧血と胃の老化現象は関係があるのでしょうか?

 

(前号より続く)

 胃の老化現象と貧血を結びつける要素は「鉄」と「ビタミンB12」です。まず鉄の問題から考えてみましょう。
 人間は食物に含まれている鉄を腸から吸収し、血液を作る原料とします。食物中にはレバーなどに含まれる2価の鉄と、野菜に多く含まれる3価の鉄と2種類あります。前者は効率よく腸から吸収されるのですが、後者は吸収されにくいと言われています。3価鉄吸収に胃酸が活躍します。胃酸により3価鉄は2価鉄に変換され吸収しやすい状況となるのですが、高齢者になると胃の老化現象のため胃酸の分泌が減少します。
 また、食事量も少なくなり肉・野菜不足となっているのでさらに鉄分不足となります。レバーを食べるだけでは対応できません。このため、2価鉄を「薬」として内服する必要があります。鉄剤による胃腸症状のため内服継続が難しい場合は定期的な点滴注射が必要となることもあります。
 次にビタミンB12欠乏についてお話します。食物中のビタミンB12は胃から分泌される〝内因子〟と呼ばれる物質と一緒になることで腸から吸収されます。高齢になるとこの内因子の分泌が減少し、ビタミンB12欠乏状態となります。ビタミンB12欠乏は貧血となるだけではなく神経も傷害され、放置していると歩けなくなります。このような状況となることを防ぐためはビタミンB12の定期的な筋肉注射が必要となります。

 

高齢者貧血での注意点は何でしょうか?

 鉄欠乏にしても、ビタミンB12欠乏による貧血にしても、ゆっくり進行するため自覚症状は殆どありません。あるとき歩行時の息切れを自覚するようになっていたり、ひどい場合にはいきなり心不全や歩行障害に陥ってしまうことで発見されることも珍しくありません。定期的な検診を受けるようにしてください。特に胃の手術を受けた方は注意が必要です。また、治療は生涯にわたることをご理解ください。
 また、今回はお話をしませんでしたが、血を作る工場の働きが悪くなることで起こる「造血不全症」も、最近増加してきております。この造血不全症は専門病院での診察・治療が必要となります。貧血で心配な場合は主治医の先生とよく相談をしてください。

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