健康コラム

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乳癌時代を迎えた日本、アジア

東邦大学医療センター大森病院
乳腺・内分泌外科准教授
緒方秀昭 医師

最近、乳癌に関するニュースを目にすることが多くなってきました。もともと乳癌は欧米女性の癌の中では最も多く、8人に1人が罹患する病気といわれています。日本ではもともと乳癌になる人は多くはなかったのですが、戦後一貫して増加し、2003年に女性の癌の中で最も多くなりました。2015年には年間罹患数は約9万人に達し、これは1975年と比べると5倍以上で、現在は12人に1人が乳癌になるといわれています。この傾向はアジア諸地域でもみられ、シンガポールでも1980年比で3倍に増加しています。乳癌は社会が豊かになると増加する傾向があるようで、アジアは乳癌時代を迎えようとしています。

乳癌は無症状

乳癌は痛むことはありません。特に初期には全く無症状で、しこりを触れることすらありませんので検診以外に発見する手立てはありません。乳癌が古くから国民病であった欧米地域では、女性の乳癌検診に対する意識は高く、マンモグラフィー検診の受診率はアメリカやイギリスでは70~80%に達しています。しかし、日本の乳癌検診受診率はまだ低く、東京都内の検診率は30%程です。

乳癌は遺伝する?

外来診療中に乳癌患者さんからよく質問されることのひとつが、”遺伝”に関することです。「自分の乳癌は、娘に遺伝しないのか?」「家系に乳癌の患者がいないのに何故自分だけ乳癌になったのか?」というものです。現在のところ、全乳癌の10%程の人が遺伝性に乳癌を発症したと推定されています。これらの人は、母親、姉妹、伯母・叔母に複数の乳癌患者さんがいることが多いのです。遺伝子検査をすることで、この遺伝性乳癌は診断できます。心配な人は外来でご相談ください。

乳癌の手術について

一般に乳癌と診断されたら手術を受けることになります。手術法には乳房全部を切除する乳房切除術と、癌病変を中心に切除して病変のない乳腺を残す乳房部分切除術(乳房温存手術)があります。どちらを選択するかは、癌の存在する部位と進行度から決定されますが、病変の広がりから乳房切除を余儀なくされた人も、現在は乳房再建で失われた乳房を取り戻すことができます。現在は乳房切除と同時に乳房再建を行うことが保険適用となり、こちらを選択する人が増えてきました。

乳房再建を希望する患者さんは決して若い方だけではなく、70歳を過ぎた人も珍しくありません。温泉に友達と行きたい、孫と一緒にお風呂に入りたいなど、日本独特の事情もあるようです。担当の先生とよく相談して、自分に合った手術法を選択してください。

汐田総合病院 乳腺外来
 毎週金曜日午前
 外科診察室にて
 担当医は緒方秀昭医師
 受診及び乳癌検診ご希望の方は
TEL 045(574)1369へ

633-03

77歳女性、右乳房切除後に乳房再建を行った。乳輪部はタトゥーで着色する。〝孫とお風呂に入りたい〟、が乳房再建を希望した理由だった。

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