終末期医療に関する指針について

汐田総合病院
人生の最終段階(終末期)における医療・ケアの意思決定支援に対する指針・手順書

2023.9.23 汐田総合病院管理会議改定
2024.2.9  汐田総合病院管理会議改定

  1. 当院における『人生の最終段階(終末期)』の考え方
    『人生の最終段階(終末期)』とは、個々の病態において様々ではあるが、医師の医学的知見に基づき、心身機能の障害や衰弱が著明で明らかに回復不能な状態であり、かつ近い将来確実に死に至ることが差し迫っている状態をいう。
    以下の点についても配慮する。
    ・回復不能な判断は、主治医を含む複数の医師・医療ケアチームで行うことが望ましい。
    ・倫理的側面を鑑みて、複数の専門職を含む倫理カンファレンスで回復不能の判断、あるいは看取り対応の実施の承認がなされることもありうる。
    ・死に至るまでの間、患者本人や家族においても身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛に対する医療・ケアを行う。
    ・患者の尊厳と価値観・人生観を尊重し、家族との関係においてもこの点に配慮する。
    ・がん患者の臨床的な予後の予測にPPS(Palliative Performance Scale 表1)は有効である。
  2. 目的
    人生の終末を迎える際、人は『人生の最終段階(終末期)』を過ごす場所及び行われる医療・ケアについて、自由に選択できる環境が必要である。『人生の最終段階(終末期)』の過程においては、死をどのように受け止めるかという個々の価値観が存在し、患者本人はもとより、看取る立場にある家族の思いもゆらぎ、変化する。そのなかで患者本人が安らかに死を迎えることが重要である。
    当院では『人生の最終段階(終末期)』にある患者とその家族に対し、患者本人の意思と権利を最大限に尊重し、患者本人の尊厳を保つと共に、安らかな死を迎えるための意思決定を支援し、『人生の最終段階(終末期)』にふさわしい最善の医療・ケアを実施する。
  3. 対象
    『人生の最終段階(終末期)』における医療・ケアについて十分な説明を受け、積極的な治療及び延命処置を希望せず、これに同意した患者とその家族
  4. 意思決定支援・話し合いの進め方
    1. 意思決定に際しては、適切な情報の提供と説明*1(インフォームドコンセント)がなされていることが前提である。
    2. 患者本人の意思が確認できる場合には、患者の意思を基本とし、医療ケアチームと共に『人生の最終段階(終末期)』の医療・ケアの方針を決定する。その際、医療ケアチームは押し付けにならにように配慮しながら、患者と十分な話し合いを進め、その内容を記録に残しておく。また、患者が拒まない限り、決定内容を家族へ伝える。
    3. ACP(アドバンス・ケア・プランニング)*2の視点を大切にし、患者本人のこれまでの人生観や価値観、どのような生き方を望むのかを繰り返し確認しながら話し合いを進めていく。揺らぎや迷いはあって当然であり、話し合う過程で変化していくことを理解する。
    4. 患者本人の意思決定を基本とするが、患者が選択した方法が必ずしも最善ではない場合もあるので、医療ケアチームは患者の理解度を確認しながら話し合いを進めていく。(SDM:共同意思決定)*3
    5. 患者の意思決定能力が不十分な場合、患者本人の『事前指示書』があればそれに従い、なければ代理意思決定者(患者の意思や価値観を推測できる家族、または第三者)に適切な情報の提供と説明(インフォームドコンセント)を行い、『人生の最終段階(終末期)』における医療・ケアの方針を決定する。
    6. 代理意思決定者がおらず、医療従事者に判断がゆだねられる場合には、複数の専門職から構成された医療ケアチームで話し合いを行い、患者の意思や価値観を推測できる家族、または第三者と共に患者にとって最善と思われる医療やケアの方針を選択していく。
      (医療者の価値観で物事を進めていかないように配慮し、何度も話し合いのプロセスを踏むこと)
    7. 医療ケアチームとの話し合いの中で方針決定が困難な場合には、倫理カンファレンス*5を開催し、『人生の最終段階(終末期)』における医療ケアの方針に対する検討・助言を行う。
      図解:終末期医療の方針決定のためのフローチャート(図1)
      【注釈】
      *1:医師の説明内容(インフォームドコンセント)には以下を含むこと。
      ・いかなる治療によっても病状回復の見込みがなく、近い将来に死を迎える状態であること。
      ・侵襲的処置は患者本人の苦痛を高める可能性があり、かつ利益が低いこと。
      ・積極的な延命処置(気管内挿管・心肺蘇生を含む)は控えるが、あらゆる苦痛や症状の緩和に努めること。
      ・医療ケアチームは患者の尊厳を保ち、環境を整え、安らかな最期を迎えられるようケアを行うこと。
      ・患者やその家族が望む場所で最期を迎えるため、可能な限り希望に沿うように調整をすること。
      *2:ACP(Advance Care Planning)将来の医療やケアについて、その人の人生観や価値観、大切にしたいことなどを本人を主体にその家族や近しい人、医療ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人の希望に沿った意思決定を支援するプロセス。
      *3:SDM(Shared Decision Making:共同意思決定)医療者と患者との双方で協力し、意思決定をすること。
      *4:『事前指示書(Living Will)』とは、患者自身があらかじめ終末期医療に関して指示している書面のことを言う。(別紙1)
      *5:倫理カンファレンス開催基準参照のこと。
  5. 看取り対応の実施における責任体制と役割
    〇病院長
    ・看取り全般に対する総括責任
    ・死生観・終末期医療・看護および看取りケアに関する職員教育の監督
    〇医師(主治医)
    ・医療上の責任
    ・終末期の病状・看取り対応・ケアの開始時期の判断
    ・患者・家族への説明(インフォームド・コンセント)
    ・緊急時、夜間帯の対応と指示
    ・定期的なカンファレンスへの参加
    ・死亡確認、死亡診断書等関係書類の記載
    〇看護部長
    ・看取り・ケアにおける看護・介護上の統括責任
    ・死生観・終末期医療・看護および看取りケアに関する職員教育の監督
    〇病棟看護師長
    ・病棟における看取り看護・ケアに対する管理責任
    ・看取り看護・ケアに関する環境調整と職員教育
    ・家族や他関係者の相談窓口
    ・家族への対応に対する監督
    ・家族ケアに対する指導
    ・医療チームにおける情報の共有やカンファレンスの実施
    〇看護・介護職員
    ・看取り看護・ケアに必要な多職種協働における連携の強化
    ・看取り期における状態観察の結果に応じた必要な処置への準備と対応
    ・症状緩和のための環境調整やコミュニケーション、看護ケアの実施
    ・状態観察と経過記録の記載
    ・随時、家族への説明と不安への対応・相談窓口
    ・家族によるケアに関する指導
    ・定期カンファレンスへの参加
    〇管理栄養士
    ・本人の状態と嗜好に応じた形態の食事の提供
    ・食事・水分摂取量の把握
    ・定期的なカンファレンスへの参加
    〇薬剤師
    ・必要な薬剤の情報提供と調整
    ・定期的なカンファレンスへの参加
    〇療法士
    ・安楽な体位の調整やマッサージ等の実施
    ・定期的なカンファレンスへの参加
    〇ソーシャルワーカー
    ・患者や家族の看取り場所・社会的なサービスに関する情報の提供
    ・定期的なカンファレンスへの参加
  6. 終末期・看取りに関する職員教育
    『人生の最終段階(終末期)』における医療やアドバンス・ケアプランニング(ACP)、看取りのケアに対する研修を計画し、全職員対象に実施する。

【参考文献】
*厚生労働省:『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』2018年3月