健康コラム

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脂質異常症の治療(3)「薬物療法」

高コレステロール血症と高トリグリセリド(TG)血症に対する治療薬がそれぞれあります。

A 高コレステロール血症の薬物治療

主要な治療薬を2つあげます。

A-1:HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)

正式名称が長いのでスタチンと呼ばれます。全世界的にコレステロール治療の主体となっている薬剤です。(ちなみにスタチンの原型は日本人が発見しました) 強力なコレステロール低下作用をもちます。その作用機序は2つあり、肝臓でのコレステロール合成を阻害する(作るのを抑える)ことと、肝臓のLDL受容体(肝がLDLを取り込むとりもちのようなもの)を増やして血液中からLDL-Cを肝臓に取りこませることです。

またスタチンには血管内皮細胞機能の改善や抗炎症作用といった血管に良い効果があることも判明しています。

心血管イベント(狭心症、心筋梗塞)を抑制することもわかっており、治療薬の中心の一つとなっています。

高コレステロール血症の治療の主体となるスタチンですが、注意すべき副作用があります。横紋筋融解症という副作用です。文字通り副作用で筋肉が融解し(融ける)、筋肉痛を生じます。ひどくなると尿が赤くなり腎不全を併発するので注意が必要です。

A-2:エゼチミブ

比較的最近コレステロール治療薬として世に出た薬で、スタチンと異なるユニークな作用を持ちます。

それは、小腸において胆汁中と食事中のコレステロールの吸収を選択的に阻害する(吸収を抑える)作用です。肝のLDL受容体を増やす作用はスタチンと同じですが、エゼチミブには小腸におけるコレステロール吸収阻害作用があるためにコレステロールの多い食事を摂る傾向のある人に効果があります。実際の効果としてはスタチンほど強力ではありませんが劇的に血清コレステロール値が改善する方もいます。

エゼチミブはスタチンほど横紋筋融解症の副作用はなく比較的安全に使用できる薬です。(逆にスタチンを副作用のために服用できない方に治療薬として使用できます。)

また、スタチンとエゼチミブを併用するとコレステロール低下作用がさらに強力になることも知られています。

他にも陰イオン交換樹脂(レジン)やプロブコールといった薬も治療に使われます。また、重症の遺伝性脂質異常症で家族性高コレステロール血症という疾患がありますが、このときにはLDLアフェレーシスという血液透析に似た原理の治療方法があります。原稿の都合上割愛させていただきますが、興味のある方は参考文献をあたってみて下さい。

B 高トリグリセリド血症の薬物治療

3種類の薬が治療薬として使用されていますが、代表格のフィブラート系薬剤について説明します。

フィブラート系薬剤には2つの作用があり、肝臓でのトリグリセリド合成を阻害する作用と血中リポ蛋白におけるトリグリセリドの分解を促進する作用です。

フィブラート系薬剤もスタチンと同様に副作用として横紋筋融解症があるために注意が必要であると同時にスタチンとの併用が原則禁忌となります。(実際は、コレステロールもトリグリセリドも両方高い方には併用する場合もあります)また腎機能がもともと低下している人は副作用が出やすい傾向にあるのでスタチン、フィブラート系ともに慎重に使用しなくてはなりません。かかりつけの先生にもご相談してみてください。

脂質異常症はもちろんのこと、糖尿病や高血圧といった生活習慣病は初期には症状がほぼありません。逆に症状が出現した時には臓器障害(心臓、脳、腎臓など)が生じており根本的治療が難しくなっている場合が多いのです。したがって日頃の生活習慣の見直しや健診で自分の健康をチェックすることが大切です。(かかりつけ医がいる方は相談するのも一つでしょう)

以上駆け足でしたが、本稿が皆さんの健康の一助になることを期待して脂質異常症のお話を終わりにしたいと思います。

参考文献
#. 病気がみえるvol.3
糖尿病・代謝・内分泌(MEDIC MEDIA)
⇒一般の方でも読みやすくできています。
#. 糖尿病・代謝・栄養疾患ビジュアルブック(学研)
#. 脂質異常症(Medicina 2011.5月号 医学書院)
#. 高脂血症(今月の治療 2005 総合医学社)

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